【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
episode*02『あんまりにもお綺麗で……』
金曜日の朝は好きだ。
もちろん、今日を乗り切れば明日から休み、という子供みたいな理由から。大人になったって、休日は嬉しい。
いつものように、部署内で一番早くに出勤する。花瓶の水を代えて、観葉植物に水やりをした。
これが、私のいつもの日課。ここから一日の仕事が始まる。
那月君は、今日は会社にいないって言っていたな……。
営業企画部になってからは社内にいる時間が増えていたから、少し寂しい。今日は那月君に会えないのかと思うだけで、一日の楽しみがひとつ減った。
でも、日曜日に会えるんだから……今日も頑張ろう。
月末でやることが多いけど、那月君とのデートを糧に今日の仕事を乗り切らなきゃ。そう思って頬が緩んだ時、誰かが出社してきたのか扉の開く音がして、気を引き締めた。
*****
お昼休みになり、手を洗うためパウダールームに入る。
「那月君と花京院さんって、本当に付き合ってるのかな?」
入口に足を踏み入れた時、そんな会話が聞こえて咄嗟に仕切りへ隠れた。
私の話だろうか?
「正直納得いかないよね。花京院さんって、良い噂聞かないし」
「わかる。あの人社長の愛人らしいよ?真面目そうな顔してやることやってるよね~」
「うわ~、那月君かわいそう。遊ばれてるんじゃない?」
「できる女はすることが違うわね。ほんっと、あの人早く寿退社でもしてくれたらいいのに」
愛人って……。
スカートの裾をぎゅっと握る。自然とこぼれそうになったため息を飲み込んで、そっとその場から逃げた。