【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「あ、あの、恋愛経験の浅い女性は面倒だっていうのを、聞いたことがあって……それで、ずっと言い出せなくて……那月くんはきっと、私のこと経験豊富な女だって思っていただろうから……その、騙すような形になって、ごめんなさい……」
言い訳するみたいに早口になってしまって、恥ずかしさに拍車がかかる。ああもう、情けない。
こんなの全然、かっこいい年上の女性じゃない……ますます幻滅させてしまった。
これ以上喋るともっとみっともなくなりそうで、言葉がこぼれてこないように下唇を噛み締めた。
「なんで先輩が謝るんですか……」
え?
私が顔を上げるよりも先に、強く引き寄せられた。
久しぶりに感じる那月くんのぬくもりに、酷く安心する。
「……俺、本当にごめんなさい」
求めてない謝罪の言葉に、首を横に振る。まだ声は出せない。一言でも発すれば、涙がこぼれてしまいそうで。那月くんの服を汚してしまうのは避けたい。
「先輩のこと、一瞬でも疑った自分が情けないです」
那月くんの声は苦しそうで、心の底から悔やんでいるように聞こえた。
私はただもう一度、首を横に振る。
「……あのね、先輩」
優しい声で呼ばれ、ちらりと視線を上げる。
那月くんは少しだけ体を離して、私の顔を見つめてきた。