【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
慈しむような、愛おしくてたまらないとでもいうかのような表情で見つめられ、驚く。
「先輩は何か誤解してるみたいですけど、俺は先輩のことを面倒なんて思うことも、騙されたなんて思うこともありません」
那月くんは「はぁ……」とため息とは違う息を吐き出して、もう一度強く私を抱き寄せた。
「嬉しいです……先輩みたいな素敵な人の、初めての男になれたなんて」
嬉しい……?
「信じられない。どうにかなりそうです」
想像していたなかった反応に、言葉が出てこない。
引かれる予想しかしていなかったから、尚更驚きを隠せなかった。
嬉しいって……ど、どうにかなりそうって……。ど、どういう心境なんだろう?
でも、那月くんの様子からして、嘘をついているようにも気を遣っているようにも見えなかった。
けど、本心で言っているなら、益々意味がわからない。
「……お、重たくない?」
もっとこう、面倒くさいとか、嫌がられるようなリアクションが返ってくるのが当然だと思っていたから。
なのに、那月くんは嬉しそうに目尻を下げた。
「そんなこと思うわけありません。俺が喜んでるの、わかりませんか?って、すみません、はじめてに喜ぶとか、俺気持ち悪いですよね」
人差し指を頬に当て、ぽりぽりと申し訳なさそうに掻いた那月くん。