【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
男の人とこんな会話をすること自体が初めてで、わからない。女性側からこんなことを言うのは間違っていたかな。
またふつふつと恥ずかしさが込み上げて、私は顔を隠すように俯いた。
「う、嘘です、忘れてくださ——」
「本気、ですか?」
私の言葉を遮った那月くんの声は、焦っているように少しかすれていた。
引かれたわけでは、ない……?
「ごめんなさい先輩、今のは聞き逃してあげられない」
顔を上げると、那月くんの熱のこもった瞳と視線が交わった。
「怖くないですか?嫌なら、はっきり拒んでください。先輩が嫌がることはしたくない」
あくまで私の気持ちを最優先してくれる気遣いに、嬉しくなる。
「いくらでも待ちます。……って、こんなに動揺して、俺説得力ないですよね」
言葉通り、那月くんの瞳の奥が揺れていて、動揺しているのがわかる。
普段冷静で、いつもどこか余裕のある那月くんが、取り乱しているなんて……。
いつもならかっこいいと思う那月くんのことを、今は少しだけ可愛いと思ってしまった。
他の恋人同士のことはわからないけど、私は那月くんにたくさん我慢をさせてきたと思う。
こんなふうに、私のペースだけに合わせてくれる人は、きっといない。
私だって……那月くんと、今よりも深い関係になりたい。
だから……。
「怖く、ないです。」