【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
もう一思いに、全部奪って……。

那月くんの喉が波を打ったのがわかる。


「先輩、また敬語になってます」


ふっと微笑むその笑顔はいつもとは違って、欲望がにじんでいるように見えた。



「先輩のはじめて、俺にください」


甘い声でささやかれて、心臓がおかしくなりそう。



「ひ、ひとつだけ、お願いがあります……」

「なんですか?」

「シャワーを……か、貸してください……」



私の言葉に、那月くんはまた笑った。










先にシャワーを浴びさせてもらって、ソファで那月くんを待つ。

ど、どうしよう……さっき以上に、緊張が……。

覚悟を決めたはずなのに、時間が経てば経つほど逃げ出したくなった。
怖いわけではなく……ただ、恥ずかしさのあまり、うまくできないんじゃないかという不安が募る。

頭を抱えたくなった時、リビングの扉が開いた。



「お待たせしました」



半乾きの髪のまま、現れた那月くん。
いつも那月くんは身だしなみも完璧だから、その姿がとても無防備に見えて、私の緊張感も高まってしまう。

那月くんは私の隣に座って、顔を覗き込んできた。



「……やっぱり怖くなりましたか?」

「ち、違うの。その……」


もちろん、少しは恐怖心もある。
でも、それ以上に不安で……。



「私、うまくできる自信が……」



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