【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「……わ、私もです」
朝から、こんなにも幸せで心が満たされてる。
私をこんなふうにしてくれるのは……きっと那月くんだけだ。
嬉しくて、自分から那月くんに体を寄せた。
甘えたくなって、那月くんの首元に顔を預ける。
「はぁ……先輩、可愛すぎます」
頭上からため息が降ってきて、髪にかかってくすぐったい。
那月くんの大きな手が私の頬を撫でてくれて、すごく嬉しかったけど……ひとつだけ、どうしても気になってしまった。
視線を上げて、じっと那月くんを見つめる。
「……ん?どうしたんですか?」
「あの、名前……」
昨日は、名前で呼んでくれたのに……また先輩に戻ってる……。
先輩って呼ばれるのが嫌ってわけじゃないけど……那月くんには、名前で呼ばれたい……。
そんな、めんどくさいわがままが生まれた。
「……ダメだ、もうにやけとまんないです」
那月くんは言葉通り緩んでいる口元を隠すように、手で押さえていた。