【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
私は話したことはないし、すごいなぁと思いながら傍観している。


「すみません、花京院さんですよね?」


仕事中に話しかけられて、顔を上げた。
そこにいたのは、桐生さんだった。


「……はい」


なんだろう……?
事務作業でも頼まれるのかと思い、彼を見る。

なぜか彼は、じっと私を見たまま何も言わなかった。


「あ、あの……?」


顔に穴が開くほどの視線に、戸惑ってしまった。
私の顔に、何かついてる?化粧が崩れてるとか……?

そう心配になったけど、彼はすぐに笑顔を浮かべて理由を話した。


「すみません、見たこともないような美人だったので、じっと見ちゃいました」


返答に困る発言だ。
気を遣っていただいたのに申し訳ないけれど、そういうお世辞は得意ではない。

こういう時、うまく躱せたらいいんだろうけど……私の悪いところだ。


「ご用件はなんでしょうか……?」


愛想がない言い方をしてしまったなとすぐに反省したけど、後悔しても仕方ない。
心の中で、ごめんなさいと謝っておく。

桐生さんは思い出したように手を合わせた。


「ああ、そうだった。担当になったテーマパークのフードメニューの件なんですけど、これって二年前に花京院さんが担当した案件ですよね?」


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