【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
桐生さんが見せてくれた資料は、確かに私が営業部時代に担当したものだった。


「はい、そうです」


期間限定のフードメニューの企画と、調達ルートまで決めなくてはいけなくて、苦労した案件。
異動してきてまだわずかしか経っていないのに、もうこんな企画を任されているなんて。


「今回、企画に加わってもらえませんか?」


恐る恐る、そう言ってきた桐生さん。

私が……?

前担当だからという理由だろうけど、営業の仕事を手伝ってサポートできる自信はない。

今は営業部でもないし、総務の私が入る必要はないけど……引き継ぎという意味で、断る真っ当な理由も思い浮かばなかった。


「前回の時の助言程度なら……」

「助かります」


桐生さんは嬉しそうに、爽やかな笑みを浮かべていた。

彼……悪い人ではないんだろうけど、やっぱり笑顔が少し怖い。

なんというか……人をコントロールしようとしているように見えるっていうか……。
い、いや、勝手な妄想はやめよう。

私が少し疑心暗鬼すぎるだけだ……社内の人の評判も良いみたいだし。


「とりあえず挨拶に行く前に市場観察として、明日そのテーマパークに伺うつもりです。花京院さんもついてきてください」

「え……」


あ、明日?急だな……。
< 152 / 220 >

この作品をシェア

pagetop