【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
それに、視察ならひとりで……。
そこまで考えたけど、言うには至らなかった。
異動してきたばかりの同僚なんだから、少しくらい先輩として手を貸さないと。
とりあえず、今溜めている仕事が早急に終わらせよう。
「わかりました」
「助かります」
いつもより忙しくなりそう……と時計を見た時、オフィスの外の廊下に那月くんの姿が見えた。
あっ……。
つい目で追ってしまったけど、ハッと我に返って視線を逸らす。
社内で関係がバレているとはいえ、仕事に私情を持ち込んでいると思われたくない。
「どうしたんですか?顔が赤いですよ」
桐生さんに指摘されて、ますます顔が熱くなった。
「えっ……な、何もありません」
誤魔化すように視線を逸らして、無意識に髪を触ってしまう。
「へー……」
「は、話はそれだけですか?」
「はい。詳細は後でメールさせてもらいますね」
「よろしくお願いします」という言葉と笑顔を残して、去っていった桐生さん。
ふぅ……危ない危ない。那月くんを見つけた嬉しさが顔に出てしまっていた。
パチパチと軽く頬を叩いて、私は気を引き締め直した。