【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。


明日の分の仕事も先に片付けようとしたら、定時をすぎてしまった。

残業はしないようにしていたけど、今日は那月くんとの予定もなかったからつい時間も気にせず仕事に集中していたら、もう20時をすぎている。

明日も朝から桐生さんと視察に行かなきゃいけないんだから、帰ってゆっくり休もう。

オフィスを出て、エレベーターのボタンを押す。


「あっ……」


扉が開いた先に那月くんの姿があって、驚いた。那月くんも私を同じ表情でこっちを見ている。


「先輩、まだ残ってたんですか」

「那月くんこそ……お疲れ様です」

「お疲れ様です。乗りますよね?」


ハッとして、私もエレベーターに乗った。

ふたりきりだ……。



「最近、残業多いんですか?」

「いえ、今日は早く片付けたい仕事があって……那月くんは?」

「俺もです。今日は直帰の予定だったんですけど、確認しておきたい資料があって戻ってきたんです」


本当に偶然会えたことに、嬉しくなった。
残業していてよかった……なんて、浮かれたことを思ってしまう。


「先輩、送っていきます。行きましょう」


会社を出て、那月くんが手を繋いできた。


「ありがとうございます」

「……百合花さん、もう会社の外ですよ」


どきりと、心臓が大きく音を立てた。


< 154 / 220 >

この作品をシェア

pagetop