【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
私たちの中で、いくつかのルールが自然とできた。
会社の中では同僚として、今まで通り接する。
でも、会社を出たら普通の恋人同士として、私は敬語は禁止。那月くんは私を名前で呼ぶ。
那月くんに名前で呼ばれるの、まだ慣れないな。
とても嬉しいけど、くすぐったい気持ち。
那月くんの車に乗せてもらうのも、もう何回目だろう。
助手席に座って、そんなことを思った。
「百合花さん」
「出しますね」
不意打ちは、反則だと思う。
運転をしている那月くんの横顔は、いつだって素敵だった。
本当はじっと見つめたいけど、不躾かなと思ってできない。
「今日、桐生に絡まれてませんでした?」
え?
そういえば、桐生さんと話していた時に那月くんの姿があった。
でも、那月くんは他の人と話していたし、私の姿に気づいてないと思っていたのに。
見てたのかな……?
「異動してきた子ですよね。うちの部署でも有名ですよ」
「実は、私が営業の時に担当してた案件を任されたみたいで……」
「百合花さんも加わるってことですか?」
「助言程度しかできないだろうけど……。明日も、下見に同行することになったの」
そう伝えると、那月くんは一瞬表情を曇らせた。