【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「気をつけてくださいね」
頑張ってならわかるけど……気をつける?
迷子にならないようにってこと?いや、私もいい大人だし、那月くんもそんなことを心配しているとは思えない。
「百合花さんは綺麗な方なんで、あいつが惚れないか心配です」
那月くんの言葉に、驚いて目を瞬かせた。
そ、そういう心配……?
「私のことを綺麗なんて言ってくれるの、那月くんくらいだよ」
気をつけなくても、桐生さんが私をそんな目で見ているわけがないし、那月くんの心配は必要ない。
心配性な那月くんに思わず笑みがこぼれたけど、愛されていることを実感した。
「全然まだ自覚してない……」
なぜか那月くんは、呆れたように眉間にしわを寄せていたけど。
視察に行く前に、いつもより早く出社して先に今日の分の雑務を済ませた。
「桐生さんともう話しましたか?」
「仕事の用事もないのに話しかけられないわよ」
コピー機の前で、同僚の女性ふたりが楽しそうに話している会話を、私の地獄耳が拾ってしまった。
「あたし、この前話したんですけど、もうすっごい好青年って感じでしたよ〜」