【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。



「気をつけてくださいね」


頑張ってならわかるけど……気をつける?

迷子にならないようにってこと?いや、私もいい大人だし、那月くんもそんなことを心配しているとは思えない。


「百合花さんは綺麗な方なんで、あいつが惚れないか心配です」


那月くんの言葉に、驚いて目を瞬かせた。

そ、そういう心配……?


「私のことを綺麗なんて言ってくれるの、那月くんくらいだよ」


気をつけなくても、桐生さんが私をそんな目で見ているわけがないし、那月くんの心配は必要ない。

心配性な那月くんに思わず笑みがこぼれたけど、愛されていることを実感した。


「全然まだ自覚してない……」


なぜか那月くんは、呆れたように眉間にしわを寄せていたけど。







視察に行く前に、いつもより早く出社して先に今日の分の雑務を済ませた。



「桐生さんともう話しましたか?」

「仕事の用事もないのに話しかけられないわよ」


コピー機の前で、同僚の女性ふたりが楽しそうに話している会話を、私の地獄耳が拾ってしまった。


「あたし、この前話したんですけど、もうすっごい好青年って感じでしたよ〜」

< 156 / 220 >

この作品をシェア

pagetop