【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「花京院さんって、お名前はなんていうんですか?」


タクシーに乗ってから、桐生さんが沈黙を破るようにそう聞いてきた。
口数の少ない私といるのは苦痛だろうから、気をつかわせてしまったのかもしれない。


「百合花です」


愛想よくしようと思ったのに、いつものようにそっけない言い方になってすぐに後悔した。

桐生くんは異動してきたばかりで、さらに私よりも年下だ。詳しい年齢は知らないけど、多分下だと思う。
先輩である私が気まずくさせてどうするの……!

そう思ったけど、桐生くんはコミュニケーション力の高い人だったらしく、私の返事も厭わず話を続けてくれた。


「それじゃあ、ふたりの時は百合花さんって呼んでもいいですか?名字が長いので」


え?名前で……。
距離が近すぎる気がしたけれど、確かに自分の名字が長いことは自覚していたから、断る理由もなかった。


「はい」


他の人がいない時なら、変に勘ぐられる心配もないし……断る方が意識していると思われそうだ。


「ありがとうございます」


その後も、桐生くんは目的地に着くまで会話が途切れないように話してくれた。

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