【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「あ、遊びに来たわけじゃないんですよ」
「ははっ、わかってます。異動してきて一発目の担当なので、頑張りますよ」
ほっ……と胸をなでおろしたのもつかの間だった。
「ねえ、やっぱり入ってみませんか?」
ど、どうして入る必要があるんだろうっ……?
「中に何があるかわからないじゃないですか。ハロウィンも近いですし、ホラーものも」
「……」
単純に、桐生さんが怖いものが好きという理由なら、私だって断れた。
でも……そんなふうに言われると、入らない方が不誠実な気がしてくる。
「百合花さん、もしかして怖いのダメですか?」
図星を突かれて、慌てて首を横に振った。
「い、いえ、そんなことはありません」
本当は、おばけと聞くだけで身震いしそうなほど、大の苦手。
出来るならば今すぐ逃げ出したいけれど、変なプライドが私の邪魔をした。
「なら行きましょう」
「……」