【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
俺が新しく担当になった案件の前の担当がその人だったと知り、チャンスだと思った。
さすがにただの職権濫用ではなく、前担当として聞きたいことや手伝ってもらいたいこともあったから企画に加わってもらうことをお願いし、了承を得た。
そして……。
「きゃぁああ!!」
興味本位で入ったお化け屋敷。
百合花さんは、その場にしゃがみこんだまま動こうとしない。
普段、怖いものなんて何もありませんみたいに無表情な百合花さんからは、想像もつかない姿だった。
本当に怖いもの苦手だったとは……。
「百合花さん、ここは安全だから大丈夫ですよ」
「む、無理です……もう動けませんっ……」
他の女性だったら、怖がってるふりはいいのにとか、冷めたことを思ったと思う。
でも、この人は多分弱みを見せたがらない人だろうし、本当に苦手なんだろう。
小刻みに震えている体に、かわいそうなことをしたなと反省する。
けど……意外すぎる一面を見られたことは、収穫だった。
無表情の百合花さんしか知らない他の同僚は知らないだろうな、こんな怯えた姿。
ちょっと……いや結構、可愛い。
「それじゃあ、俺が運びましょうか?」
「い、いいです……!」
俺に頼るのは嫌なのか、震えながら立ち上がった百合花さん。
その目は潤んでいて、ぐっとくるものがあった。
この人、やっぱり相当美人だ……。
「ひゃっ……!」
百合花さんが進んだ先に、おばけ役のキャストがいた。
百合花さんはまた頭を抱え、壁に張り付いている。