【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
恋愛感情なんか、もうずっと忘れていた。

愛とか恋とか信用していないし、仕事優先だったから、遊び相手はいても本命は何年もいない。
忘れていた感情が、この人によって引き出されていく。

俺だってモテてはきたけど、この人はレベルが違う。
でも、もう決めた。

——本気で落とす。

俺は決断が早いし、欲しいと思ったものは必ず手に入れてきた。
傲慢じゃなく、俺は手に入れるための努力は惜しまない人間だから。

ただ、まだ気になることがひとつある。

百合花さんのあの噂が、本当なのかどうか。


「ねえ、百合花さんって営業企画部の人と付き合ってるって本当ですか?」


百合花さんの話を聞いた時、みんなが口を揃えて言っていた。
あの人は営業企画部のエースと付き合ってるから、諦めろって。

別にその時は狙っているわけでもなかったのに、みんな憐れむような目で俺を見てきた。
俺でも、奪うのが不可能だと言われているように感じた。

俺は見た目も良い方だし、そんなことを言われたことは今まで一度もなかった。
つまり、その相手が相当良い男だってことだ。

少なくとも、俺よりは。


「えっ……」


百合花さんが、一瞬にして顔を赤く染めた。

あー……黒か。

しかも、この人こんな顔もするんだ。
めちゃくちゃ可愛いけど、この顔をさせているのが他の男だと思うと気分は良くない。

顔に、その男が大好きだって書いてある。
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