【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
episode*03『ますます可愛くて……俺困ります』
視察が終わってから、テーマパーク内で食事をして会社に戻った。
そのまま帰ろうかと思ったけど、参考としてレストランに行った。
今日は資料も集まったし、桐生さんの企画がうまくいくことを願いたい。
電車とタクシーを使って、会社に戻った。
「ねえ百合花さん、連絡先交換しませんか?」
車から降りて、会社に向かって歩いていると、桐生さんがそんなことを言ってきた。
「え?社用のメールが……」
「勤務時間外に聞きたいことがあった場合に、連絡を取りたいんですけど……ダメですか?」
確かに、社用のメールだったら会社にいるときにしかチェックしないし、緊急の連絡先はあった方がいいのかもしれない。
聞きたいことがあるなら、社内で聞いてくれたらいいと思うし、あんまり個人的に連絡先を交換するべきではないと思うけど……。
「いいですよ」
異動してきたばかりで、わからないことのほうが多いだろうから、私でよかったら相談に乗りたい。
「ありがとうございます」
自分のSNSを開いて、桐生さんに見せる。
「隙は見せないくせに、ガードは緩いですね」
「え?」
「何もありません」
にっこりと微笑んでいる桐生さんに、少し不信感を抱いた。
桐生さんって、いつも何考えてるかわからないというか……。
さっき、桐生さんの話を聞いて、少しだけ本当の彼が見えた気がしたけど……まだまだ得体の知れない人物だ。
連絡先を交換して、再び歩き出した時、外から社内のロビーが見えた。
ソファに座っている那月くんの姿が目に留まる。
「あっ……」
嬉しくて、つい声が漏れてしまった。
最近、偶然会える確率が高い気がする。
って、いけないいけない……!桐生さんが隣にいることを思い出して、慌てて目をそらして平静を装った。
「あー、あの人だったんですね」
ぎくっと、体からそんな効果音が鳴った気がした。