【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「な、なんのことですか」
「今、あからさまに嬉しそうな顔してましたよ」
はぐらかそうとしたけれど、桐生さんの追撃にますます頬は熱を持ち、墓穴を掘ってしまっただけだと気付かされた。
私は昔から仏頂面だとよく言われていたし、表情には出ないタイプだと自負していたのに……。
どうやら、那月くんに関しては例外だったらしい。
「そういえば百合花さん、俺と初めて話した日も、あの人のこと見てましたもんね」
え? そうだった……?
桐生さんと初めて話した日のことをよく覚えていなくて、記憶が曖昧だ。
「ま、奪い甲斐があります」
ぼそっと呟いた桐生さんの言葉を、私の地獄耳は拾うことはできたけど、やっぱり意味は理解できない。
桐生さんはさっきから、不可解なことばかり言ってる気がする。
「桐生さん、さっきからどうしたんですか?」
少し天然が入った人……には見えないし、もしかすると体調が悪い?
異動してきたばかりだし、仕事に対して真面目な人みたいだから、無理して体を壊したのかもしれないと心配になった。
そっと手を伸ばして、桐生さんの額に触れる。
「熱はなさそうですね」