【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
公私混同したくないってだけで、社内で隠しているわけでもない。


「……あ、愛想のない私にも、ずっと優しくしてくれたんです」

「へー……」

「誰にでも親切で、本当に優しい人です」


年下なのに、尊敬できるところばかり。
那月くんにはいいところしかないと、本気で思っている。


「優しいって、すごく抽象的な言葉ですよね」


桐生さんの言葉に、棘があるように感じた。

確かに……誰にでも使える言葉と言えば、否定はできない……。

那月くんの素晴らしさを伝えきれなかった自分の愚昧さに肩を落とした。


「すみません……」

「違います違います。そうじゃなくて……」


桐生さんは、呆れていたわけではないらしく、私を見て口角を上げた。


「俺は、優しさよりも大事なものってあると思います」


……ん?

つまり何が言いたいのか疑問に思った時、エレベーターのドアが開いた。


「どうぞ」


会釈して、先に降りさせてもらう。

結局、桐生さんの言葉の本意を聞くことはできなかった。





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