【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
定時で仕事を終えてスマホを見ると、那月くんから連絡が入っていた。
『今日、俺の家に来ませんか?』
木曜日にお誘いを受けるのは、珍しいことだった。
金曜日にお互いの家に泊まりに行くことはあっても、次の日仕事がある日は食事だけが多かったから。
でも、お泊まりの誘いってわけでもなさそうだし……何かあったのかな?
嬉しいさよりも、心配が勝った。
単純に、家でゆっくり食事でもって意味だろうか……。
とりあえず、断る理由もなかったので『お邪魔します』と返していつもの待ち合わせ場所に向かう。
那月くんと合流して、那月くんのお家にお邪魔した。
那月くんが私が好きなお店のデリバリーを頼んでくれて、ふたりでご飯を食べる。
「ごめんなさい、今日疲れてましたよね」
「え?」
「明日にするべきか迷ったんですけど、話したいことがあって……」
那月くんの言葉に、私はお箸を置いた。
「疲れていません。話って……?」
わざわざかしこまって打ち明けるなんて……なんの話だろう。
那月くんのことは信じているし、別れ話ではないと思うけど……他に何も思いつかない。
心臓が、どくどくと音を立てているのがわかった。
「実は、出張が決まったんです。一ヶ月間……」
肩透かしを食らったみたいに、全身の力が抜けた。
よかった……。って、いちいち別れ話かななんて身構えるのは、那月くんに失礼だ。
それに、愛されていることも実感しているから、那月くんの愛を少しでも疑ってしまった自分に反省した。
とりあえず、最悪が的中しなくてよかったけど……出張かぁ……。