【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
急いで、周りを見渡した。よかった……今の話、他の人には聞かれていなさそう。
「すみません……お断りさせてください……」
申し訳ないけれど、断りを入れた。
「えー……俺と行くのが嫌ですか?」
「桐生さんとってわけじゃありません。この前も話しましたけど、あまり職場の方と食事は行かないので……」
付き合いも大切だとはわかっているけど、今の時代断っても仕事に差し支えはないだろう。
それに、桐生さんといても……私が楽しい話をできる自信がない。
きっとつまらない時間を過ごさせてしまうだけだ。
「俺、企画のことで先輩に聞きたいこともあって……食事でもしながら相談に乗ってもらいたかったんです」
肩を落とした桐生さんに、罪悪感が生まれた。
企画のことで……?
「でも、急すぎましたよね。すみませんでした」
申し訳なさそうに、あははと笑った桐生さん。
相談……私に……。
「……わ、わかりました」
少しの間考えた後、私は首を縦に振ってしまった。
「え?いいんですか?」
桐生さんの顔がぱあっと明るくなり、もう完全に断れない空気が出来上がる。
「仕事の話なら……」
仕事の相談って言われたら、流石に断れない……。