【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
私も部署は違えど元営業担当だし、協力はしたいから。
「ありがとうございます!俺もう終わるので、待ってますね」
笑顔になった桐生さんは、自分のデスクへ戻っていった。
なんだろう……すごく、流されてしまった気がする……。
後悔しそうになったけど、たまには後輩の相談に乗るのも仕事のうちだ。
そういえば……那月くんとも、よく食事に行った。
私のことを個人的に食事に誘うようなもの好きな人は滅多にいなかったけれど、那月くんだけはさっきの桐生さんみたいに、相談があると言ってよく誘ってくれたんだ。
いつも美味しいお店に連れて行ってくれて、私のほうが先輩なのに奢ってもらってばかりだった。帰るときには、いつの間にか支払いが終わっていたから。
相談と言っても気の利くようなことも言えた試しがないし、先輩らしいことは何もできなかったけど……懐かしい。
あ、そうだ。桐生さんと食事に行くこと、那月くんに連絡入れておかなきゃ。
……でも、こういうのって普通するものなのかな?
わざわざ食事に行ってきますなんて報告するのも変かもしれない……。
『桐生には気をつけてくださいね』
……いや、やっぱり連絡しておこう。
那月くんは桐生さんとのこと心配しているみたいだったし、後から知られるくらいなら先に言っておいたほうがいい。
誤解させたくはないし……私だって女性とふたりで食事に行くときは、先に連絡をもらったほうが安心する。
……那月くんも、仕事でそういうことはあるのかな……。
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