【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
強引に迫っておいてなんだけど、困らせたいわけじゃない。
俺もそこそこいい男だなと自画自賛して、タクシーに乗った。
住所を伝えて車が発進した時、百合花さんのスマホが鳴った。
勝手に見るわけにはいかなくて無視をしたけど、三回目の着信がきて流石に気になる。
緊急の電話?
本人を起こしたほうがいいかもしれないと思った時、百合花さんのポケットからスマホが落ちた。
視界に入ったのは、「那月くん」と表示されたスマホ画面。
うわ……那月さんか。
ていうか、こんな鬼電するとか……心配性なのか?
この前、百合花さんといた時に会った那月さんの顔を思い出す。
俺が百合花さんに気があることを察していたのか、刺すような目線だった。
温厚な王子様なんで呼ばれている人には、到底見えなかったな。
この人はどうやら、相当独占欲が強いらしい。
コールが鳴り止んだと思ったら、また着信画面に変わった。
何回電話してくるんだよ……はぁ……。
……あ。
いいこと思いついた。
ごめんなさい、百合花さん……。
俺は心の中で謝ってから、百合花さんのスマホを手に取った。
「……もしもし?」
『……誰ですか?』
少しの沈黙の後、電話越しに聞こえたのは怒りをこらえている様子の低い声。