【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
確かに、那月くんの行動力には驚いた。
でもそれが、怖いなんて感情に結びつくことはない。


「電話に桐生さんが出たから心配してくれたんだよね……?」


視線を下げた那月くんの反応を、肯定だと受け取った。


「だとしたら、私に非があると思うから……私のほうこそ、心配かけてごめんなさい……。もうこんなことがないように、気をつけます」


確か、那月くんとの関係についてアドバイスをもらいたくて、調子に乗ってお酒を飲んだんだ。
自分がアルコールに弱いことはわかっているのに、羽目を外してしまった。

それで他の男の人に迷惑をかけて、恋人に駆けつけさせるなんて……私のほうがよっぽど悪い女。


「……俺のこと甘やかさないでください」


那月くんに、再び抱き寄せられた。


「はぁ……本当に、焦りました……」


耳元で聞こえた声は、少し震えているように感じる。


「桐生に何もされてないですか?」

何もって……きっと、桐生さんも私に手を出したりはしないと思う。

ただ……。

「あの、本当に記憶がなくて……お店まで迎えにきてくれたの?」


記憶がなさすぎて、何があったか全く思い出せない。


「百合花さんは知らなくていいです」


は、はぐらかされた……?


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