【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
ポカン、と、何やら口を半開きにして固まっている那月君。
不思議に思いながらも、急いで那月君の元へ駆け寄った。
「迎えに来てくれて、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げ、顔を上げると、那月君はまだ固まったままだった。
那月君?
首を傾げると、ようやく動いた那月君はどこか気恥ずかしそうに目線を逸らし、口元を手で押さえている。
「あ、すみません。先輩、いつもと雰囲気が違って……」
「へ、変ですか?」
「っ、い、いえ!違います!あんまりにもお綺麗なんで、驚いて……」
っ、ほんとうに?
お世辞でも、嬉しい。朝から頑張った甲斐があった……!と、心の中で小さくガッツポーズ。
もちろん顔に出ないよう、必死に表情筋を総動員させてフル稼働した。
「それじゃ、行きましょうか?どうぞ乗ってください」
当たり前のようにエスコートしてくれる那月君に、早くもドキドキが止まらなかった。
「閉めますね」
助手席の扉を閉めてくれた那月君は、運転席に移って、馴れた手つきでシートベルトを締める。
運転する男の人って、ほんとうにかっこいい。いや、那月くんだからそう思うのかな?
サイドミラーを確認して、軽やかに運転する那月君の横顔がかっこよくて、この前と同じく見惚れてしまった。