【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
私の方が年上なんだから、こう……大人の女性っぽくリードしないと!で、でも、リードってどうするの?まず、デートの時って、どんな会話をするものなんだろう?
わからないことばかりが浮かんで、途端に不安になってきた。
車内に流れる沈黙のせいで、エンジンの音がやけに大きく聞こえる。
な、何か話さなきゃ、えっと……。
「今日見る映画、アクションミステリーものみたいなんですけど、先輩はそういう好きですか?」
私の答えが出るより先に、那月君が話を切り出してくれて、ホッと胸を撫で下ろした。
「はい。映画は好きです」
「へぇ!そうなんですね!どんなジャンルを観るんですか?」
「いろいろと邦画も洋画も、分け隔てなく観ます。アクションもファンタジーも、コメディも好きです」
「ホラーとか?」
ビクッ。動揺を隠し、平然を装う。
「ほ、ホラーは、あまり……」
「え?もしかして怖いの苦手だったりしますか……?」
少し驚いた様子でそう尋ねてきた那月君。
図星を突かれて、私は慌てて否定した。
「そ、そんなことは……な、無いです」
ホラーが怖いなんてバレたら、子供っぽいと思われてしまう……!
しかも、一番見る映画は動物ものですなんて、口が裂けても言えない。
「ふふっ、意外ですね。先輩の可愛い一面知れて嬉しいです」
「に、苦手じゃ無いですっ……!」
「ははっ、そういうことにしといてあげます」
嬉しそうに笑う那月君に、私は顔が熱くてたまらなかった。