【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
こんな風に恋人扱いをされることに慣れておらず、戸惑ってしまう。
ましてや相手は那月君。溜息が出ちゃいそうなほどかっこよくて、もうこの現実が夢みたい。
こんな時間が、ずっと続けばいいのに……。
「先輩、中入りましょう」
「はい」
二人で並んで歩き、シアターの中に入る。
座席指定の試写会券らしく、私達の席は真ん中のちょうど一番見えやすい場所だった。
「席、良いところで良かったですね」
「先輩とのデートで、悪い席なんて取りませんよ」
……え?
にこりと笑う那月君に、私は少しだけ引っかかった。
試写会の券、貰ったって言ってなかった?
さっきのはまるで、席を選んで取ったみたいな言い方。
もしかして、私と来るために、わざわざ……?
って、考えすぎかな。自意識過剰は辞めなさい、私っ……。
心の中で自分を叱って、那月君から受け取ったココアに口を付けた。
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ミステリーは久しぶりに見たけど、とても面白い。
映画も中盤に差し掛かり、そろそろ話の根本が見えてきた。
ミステリーと言っても、堅苦しいものではなく、少しコメディタッチで描かれる群像劇。