【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
episode*03『俺たち、別れましょうか?』
結局、終盤まで手を繋いだままで、映画の内容なんてまったく入ってこなかった。
緊張のあまり心臓が爆発してしまいそうで、もう映画どころではなかった。
上映が終わり、ライトが点く。
那月君は、そっと手を離した。一瞬、それが寂しいと思ってしまった自分に驚く。
「結構面白かったですね」
「は、はい……」
緊張で、声が震えてしまう私。きっとまだ顔は赤いだろうし、耳まで染まっているかもしれない。
このくらいで照れてしまう自分が、恥ずかしい。
ああ、ダメ……顔が見れない。
俯いた顔を上げられない。
「先輩、出ましょうか?」
「……はい」
頭上に降ってくる声に、返事をするだけで精一杯だった。
「急に手なんか繋いで、すみませんでした」
「い、いえ」
「ご飯、行きましょうか?」
恐る恐る顔を上げると、困ったように微笑む那月君がいた。
どうしよう……。また誤解、させてしまった。嫌なんかじゃなかったのに。ほんとうは、とても嬉しかったのに……。
言わないと伝わらないことくらい、わかっている。
わかっていてそれができない私は、本当にどうしようもない人間だ。
那月君の一歩後ろを歩き、俯き気味について行った。
何か、話さなきゃ。私のせいで出来てしまった息苦しい空気を変えようと、必死に頭を回転させる。