【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
こういう時は、何を話せばいいんだっけ……一体何を言えば、那月君は楽しいと思ってくれるんだろう。
——ダメだ。私、本当になにもわからない。
こんなつまらない女と一緒にいて、那月君は嫌じゃないのかな?
デートなのに、きっと全然、楽しんでいないよね。
「お腹空いてますか?」
自己嫌悪に陥っていると、那月君が顔を覗き込むようにして見てきた。
慌てて顔を上げて、頷いてみせる。
「は、はい」
「よかった。お店、10分くらいで着きます」
那月君の笑顔に、酷く安心した。ほんと、どうしてこんなにも優しいんだろう。
那月君の優しさを痛感するたびに、大好きだと心が叫ぶ。
いつかちゃんと、私も伝えたい。
まだ一度も、言えていない「好き」の言葉を——。
駐車場に停まってある那月君の車に乗せてもらって、再び移動する。
今度は、きちんとシートベルトを忘れずに締めたので、警告音は鳴らなかった。
「俺も結構お腹空きました。映画の終盤、腹鳴ってましたもん」
運転をしながら、そんな冗談を零す那月君。
私のこと、笑わせようとしてくれてるのかな?その優しさが、心にじんわりと広がって、温かくなる。
口元が緩んで、自然と身体の力が抜けていくような気がした。
「大丈夫、お腹の音は聞こえませんでしたよ」
「ほんとですか?よかったぁ~」
那月君って、意外とお茶目?
なんだか可愛い一面に、私はまたしても彼に惹かれていく。