【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。



そんなにも前に言った些細な言葉を、憶えていてくれたなんて。

そして、ひとつの疑問が生まれる。

那月君は一体いつから、私を好きでいてくれたんだろう。

入社してすぐの会話を、憶えていてくれたなんて……って、幾ら何でも、それは自意識過剰だ。


そう思いながらも、舞い上がってしまいそうなほど嬉しかった。

クールな女を演じなくちゃとか、しっかりしなくちゃ、とか……そんなことはすっかり忘れてしまって、自然と頰が緩んでしまう。


「ありがとうございます」


無意識に、その言葉と笑みが溢れた。

那月君は私を見ながら目を見開いて、呆然としている。少ししてハッと我に返ったように瞬きを繰り返し、そして顔を赤らめた。

口元を手で覆って、恥ずかしそうに私から目を逸らす。


「それは、反則ですって……」


反則?


「……先輩、やっと笑ってくれましたね」

「え?」


あ、無意識だった……。

そういえば、那月君の前では特に緊張していて、笑顔なんて浮かべる暇はなかった気がする。今日も、今までも。

いつの間にか緊張が解けていたことに気づいて、自分でも驚いた。


那月君って凄い。こんなふうに一緒にいて、心底幸せだと思わせてくれるなんて。

いつも気を張って、必死に自分を装っていた。それなのに、今私はとても楽しくて、ずっとこんな時間が続けばいいのにと思ってる。

那月君の隣に、ずっといたいと願ってる。



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