【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「先輩の笑顔、大好きです」
「……っ」
こ、こんなアホ面……那月君って、やっぱり少し変わってる?
大好きだなんて……そんなの、私の方なのに。
那月君のことが……たまらなく、好き。
恥ずかしくて、嬉しくて、そんな感情でいっぱいになってしまう。下唇を噛み締めて、視線を逸らした。
那月君は笑顔のまま、私の手をとる。そのままぎゅっと優しく握られ、手を引かれた。
「行きましょう」
ほんとうに、夢見心地だった。手を繋いだまま、店内に入る。
人前で手を握ったり、抱き合ったり、そういうことをするカップルの気持ちが少しわかった気がする。
恥ずかしいよりも、離れたくないって気持ちが勝るんだ……。
二十八にして、初めて恋の幸せというものを痛感した。
那月君が予約してくれたのは、離れにある個室だった。
由緒ある建物の和食処で、建築業界からも注目されているお店ともあり、どこを見ても和の風情を感じられる。一応業界のものとしては、建物の作りにも惹かれた。
私たちの案内された個室は夕陽見の角部屋で、庭から差す日がなんとも美しい。
きっと予約が難しかったと思うのに、こんな素敵な場所をとってくれるなんて……。女性なら、きっと誰だって喜ぶ。