【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
私も、今にも子供のようにはしゃぎだしてしまいたいほど喜んでいた。
あくまで顔には出さないように、けれどきちんとお礼を言って、並べられたお食事に手を付けていく。
どれもとても美味しくて、本当にほっぺが落ちてしまいそうという表現がふさわしい。
「美味しいです」
「喜んでもらえてよかったです」
嬉しそうに、そして安心したように、那月君が微笑む。
「先輩は、普段は自分で料理をされるんですか?」
「はい、基本的には」
「へぇ~、俺なんてお湯沸かすくらいしか出来ないですよ」
「ふふっ、それは料理って言うんですか?」
思わず、笑ってしまう。那月君って、イタリアンとか作ってるイメージがあったから意外。
「男なんてみんなそんなもんですよ」
私を見つめる瞳がとても優しくて、心臓がどきりと高鳴った。
はぁ、かっこいい……。そんなに見られると、た、食べられない。
お箸を持つ手が少し震えていること、バレませんようにと願って、緊張を紛らわせるように黙々と食べ進めた。
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あっという間に時は経ち、残照が空を染めていた。
「もう9時ですね」
那月君の言葉に、わたしも腕時計を見る。
ご飯を食べ終えてから、本当に他愛もないような会話を交わしていたけれど、まさかこんな時間になっていたとは。まだ8時前くらいと思っていたのに。