【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。



私も、今にも子供のようにはしゃぎだしてしまいたいほど喜んでいた。

あくまで顔には出さないように、けれどきちんとお礼を言って、並べられたお食事に手を付けていく。


どれもとても美味しくて、本当にほっぺが落ちてしまいそうという表現がふさわしい。


「美味しいです」

「喜んでもらえてよかったです」


嬉しそうに、そして安心したように、那月君が微笑む。


「先輩は、普段は自分で料理をされるんですか?」

「はい、基本的には」

「へぇ~、俺なんてお湯沸かすくらいしか出来ないですよ」

「ふふっ、それは料理って言うんですか?」


思わず、笑ってしまう。那月君って、イタリアンとか作ってるイメージがあったから意外。


「男なんてみんなそんなもんですよ」


私を見つめる瞳がとても優しくて、心臓がどきりと高鳴った。

はぁ、かっこいい……。そんなに見られると、た、食べられない。

お箸を持つ手が少し震えていること、バレませんようにと願って、緊張を紛らわせるように黙々と食べ進めた。


****


あっという間に時は経ち、残照が空を染めていた。


「もう‪9時‬ですね」


那月君の言葉に、わたしも腕時計を見る。

ご飯を食べ終えてから、本当に他愛もないような会話を交わしていたけれど、まさかこんな時間になっていたとは。まだ8時前くらいと思っていたのに。

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