【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
那月君……?
「まだ一緒にいたいって言ったら……困りますか?」
どきり、と、心臓が大きな音を立てて跳ね上がった。
那月君の熱のこもった声に、耳までかあっと熱くなる。
一緒にいたい、だなんて……
そんなの、私の方が、思ってるのに。
どうしよう、どうしよう……。
こういう時、なんて言うのが正解なの?
「先輩」
再び、甘い那月君の声が車内に響く。
その声に耳が溶かされそうになってしまったわたしは、身動きひとつとれずに、彼を見つめることしか出来なくなった。
見惚れるほど綺麗な那月君の顔が、ゆっくりとわたしに近づいてくる。
……え?
さすがのわたしでも、次の展開を察した。
キス、されるっ……。
この前みたいに、頬の可愛いキスじゃない。
唇に、落とされる。
——反射的に、那月君の胸を押し退けていた。
恥ずかしさと緊張で、もうどうにかなってしまいそうだったんだ。
情けない顔を晒してしまう前に、私はあからさまに那月君を拒んでしまった。
……しまった。
これは、絶対にいけなかった。
那月君の表情が、悲しんでいるのがすぐにわかった。当たり前だ。恋人にキスを拒まれるなんて、そんなの……わたしは、那月君を傷つけた。
「あの、こ、これはっ——「すみませんでした」
急いで言い訳をしようと思ったわたしの声を遮ったのは、那月君の謝罪の言葉。
どうして?
……どうして、那月君が謝るの?