【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「俺、先輩の優しさに漬け込むようなことしてすみません」
「……え?」
「俺に告白されて、先輩は優しいから断れなかったんですよね?」
なに、それ……。
那月くんは、今までそんなふうに思っていたの?私が……思わせてしまっていた?
今すぐ、この誤解を解かないといけない。
何か言い訳を述べて、私の気持ちを伝えないといけない。そうしないと、取り返しのつかないことになってしまう気がした。
「今日まで俺の我が儘に付き合わせてしまって、ごめんなさい」
違う、違うの、私は……自分の意思で——。
「今日先輩をデートに誘ったのは、少しだけ期待したんです」
困ったように、哀しそうに、切なそうに……いろんな感情を含ませながら揺れる那月くんの瞳に見つめられて、私の方が泣きそうになった。
「もしかしたら少し俺のこと、好きになってもらえたかな……なんて」
私は、ここまで那月君のことを思い悩ませてしまったことに、酷い罪悪感を感じた。けれど馬鹿な私は那月くんの本音に言葉を失い、首を振ることも頷くことも出来なかった。
「今日はとても楽しかったです」
私も、私だって、とても楽しかった。
こんなに楽しい一日はないってくらい、楽しかった。那月君のこと、前よりもっと大好きになった。
そのどれも、どうして言葉に代えられないんだろう。声に出して、伝えられないんだろう。
何も言わない私に、那月君は無理に浮かべたような笑顔を作った。
「先輩……俺たち、別れましょうか?」
……え?
別れる?
「俺と付き合ってくれて、ありがとうございました」
「……っ」
スカートの裾を強く握りしめ、視線を下げる。
何か、何か言わないとっ……。
本当に、これで終わりになってしまう。
もう、那月君の隣に居られなくなってしまう……。