【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
堪えきれない涙が、今にも溢れ出してしまいそう。けれど、涙は見られたくなくて、弱いところなんて那月君には見せられなくて、ぐっと堪えた。
だって、彼が好きなのは大人な私。
クールで冷静で大人しくて……繕った、私だ。
今私が、嫌だ別れたくないなんて言って泣き出したら、那月君はきっと幻滅する。
それだけは避けたいのに、でも、だったらどうすればいい?
どうすれば、那月君を引き留められるんだろうっ……。
じわりと、涙が視界を滲ませた。
車の扉に手を伸ばし、逃げるように車内から出る。
結局私は何も言えずに、涙を隠すことを優先した。
私には、泣いてすがる選択肢を選ぶ勇気はなかった。
——夢のような時間は、ほんとうにあっけなく終わりを告げた。