【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
episode*04『——もう黙って、先輩』
わ……、酷い隈。
それに、目の腫れ方が尋常ではない。
朝起きて、鏡で自分の顔を確認し、溜息を吐いた。
これは酷い。こんな顔で、会社に行けないな。そう思うけど、休むわけにもいかない。
応急処置と化粧で、何とか腫れを誤魔化して会社へと向かった。
昨日、那月君と別れて家に帰って、泣き潰れた私。
自業自得なのに、涙はいつまで経っても止まることはなくて、一睡も出来ずに朝を迎えてしまった。
私の晴れない心とは裏腹に、陽光が燦々と降り注ぐ朝。太陽が眩すぎて、嫉妬してしまいそうだ。
唯一の救いは、明日が祝日で休みということ。なんとか今日を乗り切れば、明日リセットできる。
この気持ちを切り替えなければ、やっていけない気がした。
仕事中は、那月君のことは考えないようにした。
少しでも考えたら、また涙が溢れ出してしまいそうで、もう自分では涙腺をコントロール出来なかった。
那月くんとの関係が……こんなにもあっさりと終わるなんて。
いや違う。終わらせたのはわたしだ。後悔したってどうしたって、昨日はもう戻らない。
シャキッとしなさい、私……。
いつもより高いヒールを鳴らし、背筋を伸ばして歩いた。
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出社してから、手元にある仕事をいつもより早いペースで熟していった。
集中、集中。
「花京院さん」
突然名前を呼ばれて、驚いて身体がこわばる。
振り返れば、そこには後藤君の姿があった。