【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
ダメだ、ネガティブ思考が止まらない。
顔をパチパチと二回叩き、喝を入れる。
今は仕事に集中!早く終わらせるぞ……。
私はパソコンと向き合い、残りの仕事を続行した。
*****
「ふぅ……」
大きく伸びをし、疲れた目を擦る。
もう既に社内には誰も残っていないようで、ひとりエレベーターに乗った。
眠たい。早く帰って休もう。
デザインよりも機能性を重視した腕時計を見ると、時刻はすでに23時を過ぎていた。こんな時間まで残業をしたのは久しぶりだな。
もう家までの終電も無くなってしまったから、歩いて帰ろう。
家までは、徒歩三十分。遠すぎず近すぎず。ただ、ハイヒールを履いているため気が重い。
真っ直ぐエントランスを歩き、会社を出ようと出口へ向かう。
その途中、私は出口の前に立っている一人の男性を見つけて足を止めた。
え?那月君……?
その姿は紛れもなく、大好きな那月君のものだった。
驚きで固まっていると、気配を察したのか、那月君がこちらを向く。途端、顔に笑みを浮かべ、私の元へ駆け寄ってきた。
「先輩、お疲れ様です」
「どうして……まだいるんですか?」
「すいません。やっぱり一緒に帰りたくて待ってました」
こんな時間まで、待っててくれたの?何時間も……?どうしよう……嬉しくて、そんな状況じゃないのに泣いてしまいそう……。
人一倍涙腺が緩い私は、いつも那月君の優しさに涙を堪えるので必死だった。
あんなに冷たい態度をとったのに……。
——ありがとうって、言わないと。