【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
もしかして……那月君が言ったのかな?
……そっか。
「はい。そうです」
全く……。後藤君ってば、そんな話勤務中にすることじゃないのに。
お昼休み中だから、何も言わないけれど。
肯定する言葉を返せば、後藤君はなんだか複雑そうな顔をした。
「そうですか……変なこと聞いて、すみません!」
「いえ」
もしかして、もう噂にでもなっているんだろうか?
那月君と私が別れたこと。
——また、那月君はモテモテになるんだろうな……。
私と付き合っていた間は、前みたいに騒がれることは減ったみたいだけど、きっとまた以前のように戻るんだろう。
すぐに良い子がみつかって、違う女の子と付き合う合って。
……それが、普通だ。
那月君は魅力的で、私にはもったいないような人だった。
誰もが欲しがるような人。那月君に彼女ができたという噂を聞いた時に、泣かないで済むようにきっぱりと忘れなきゃ。
そう思うのに、想像するだけで涙が滲んだ。
っ、ああもう、また涙が……。
「花京院さん?」
「ご、ごめんなさい、少し用事を思い出して……」
そんな言い訳を吐いて、私は後藤君から逃げるようにオフィスから出た。
……よかった、後藤くんの前で泣いてしまうところだった。
ほんとに……情けない。