【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「酷い上司ですね。今更部下いじめとかやめてください。ていうか別に調子なんか乗ってないです。……もう、終わった話ですし」
終わった話……。
決定打を打たれた。
……いや、決定打も何もない。だって確かに私たちは昨晩別れて、終わったんだもの。
それでも私は、きっとどこかで縋る気持ちを諦められなかったんだ。
あの時、なんて言えばよかったのか。まだ、那月君を引き止められる言葉はないのだろうか。
……そんなことを考える時間も、もう要らない。
認めないと。いい加減、現実を受け入れよう。
私たちは完全に、もう他人同士なんだと。これ以上の現実逃避は、虚しくなるだけだ。
「俺、コーヒー淹れてから戻ります」
たくさんの足音の中のひとつが、こっちへ近づいてきた。
「……っ」
私は涙腺が切れたように、取り繕うことも涙を堪えることも出来なくなっていて……
給湯室に入ってきた彼の顔を見て、一層勢いを増すそれは、醜い未練の塊だった。
「——せん、ぱい?」
那月君の瞳に、私が映った。
涙でぐちゃぐちゃの顔をした私が。
那月君にこんな顔を見られてしまって、酷い有り様だ。
でも、もういい。
もう、クールな女を演じたって、仕方がないものっ……。
「どうして、泣いて……」
「……っ」
「ちょっ、先輩っ……!」
那月君の横を通り過ぎ、給湯室から出ようとした。