【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
クイッと持ち上げられて、逸らすことは許さないとでも言わんばかりに捕らえられた。
「答えて、先輩」
そんな甘い声で、囁かないで……。
呆気なく、こくりと首を縦に振ってしまうバカな私。もう、どうにでもなってしまえ……。
こんな醜態を晒したんだ。もう隠すものなんて何もない。
那月君が、「はぁ……」と溜息とは少し違う、安堵のような息を吐いた。
「……もうほんと、先輩って……」
…え?
突然自分の頭を手で押さえたと思ったら、私の肩に顔を埋めてくる那月君。
ど、どうしたのっ……?
突然のことに訳がわからなくなって顔を覗き込もうとしたら、那月くんは更に顔を押し付けてくる。
「ダメです。今俺の顔見ないで。安心しすぎて、だらしない顔してるんで」
見ないでって言われても……そんなことより、距離が、近いっ……。
そして、あることに気づいてハッとする。
ここ、給湯室だったっ……。
「な、那月君、誰か来たら……!」
いつ誰が来てもおかしくない場所。
鍵なんてかけられる部屋でも無いし、もし誰かに見られたりでもしたら……。
私たちがまだ付き合ってるって、誤解されてしまう……。
そんなの、那月くんの本望ではないはずだ。
「……はい、場所移しましょうか」
ようやく離してくれたと思ったら、今度は手を握られた。
急ぐような足取りで給湯室を出て、手を握ったままどこかへ向かう那月君。
ちょっと待って……ま、周りの人が見てるっ……。
当たり前に廊下には社員が歩いていて、みんな私たちを凝視していた。当然だ、こんなところで堂々と手を繋いで歩いているんだから。