【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「顔、見られたくなかったら、俺の背中に隠れて歩いてください」
「そうじゃなくて、手が……」
「ああ、だって離したら先輩逃げるでしょう?大丈夫です。今昼休みなんで」
何が大丈夫なのか、わからない……!
全く大丈夫ではないと、この状況に頭が追いつかない。
けれど抵抗しても離してくれる雰囲気ではなく、私は那月君に流されるまま大人しくついて行ってしまった。
気が済んだら……きっと離してくれるだろう。
「……先輩」
連れられて来たのは、使用中ではない会議室。
入るや否や、那月君は中から鍵をして、私を強く抱きしめてきた。
途端、頭の中が真っ白になる。
私、今……那月君に抱きしめられてる?
ど、どうして?
抵抗するという考えが浮かばないほど、パニックに陥っていた。
「今度は、拒まないでください……」
突然上を向かされたと思ったら、唇に柔らかい感触がした。
またしても何が起きているかわからない私は、ファーストキスの味を確認することも出来なかった。
すぐに離れた唇。
目の前にある、"男の人"の顔。
「どう、して……」
「すみません。我慢、出来なくて」