【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
我慢?なに、言ってるの?
「昨日の言葉、取り消させてください」
「…え?」と漏れた声とともに、那月君に抱き寄せられる。私を抱きしめる腕には痛いくらいの力が篭っていて、その温もりに泣きたくなった。
耳元に寄せられた唇から息がかかって、少しくすぐったい。
「先輩が好きです。昨日あんなことを言って、ずっと後悔してました。俺といたら窮屈かもしれないと思ってああ言いましたけど、やっぱり俺は先輩に、隣にいてほしい」
那月君が、後悔?
隣に……私はいてもいいの?
まだ、私とのことを……終わってないって思ってくれてる?
「でも……」
真っ先に浮かんだのは、「嬉しい」という感情。でも、簡単に頷くことは出来なかった。
「私、ほんとは……那月君が思ってるような女じゃないんです……」
……私は、完全に醜態を晒してしまった。
子供みたいに泣いてるところを見られて、きっとがっかりされたはずだ。
それなのに、わかっているのに、私の中にある那月君が好きだという気持ちが、必死に彼を繋ぎとめようとしている。
その証拠に、私は那月君を抱きしめ返していた。
私、本当は……那月君が知っているような女じゃない。
「しっかりしなきゃと思って、いつも気を張っているだけで……ほんとうはすぐ泣いてしまうような弱虫で、容量も悪くていつも緊張して、どうしようもない女なんです……」
情けなくて弱くてどうしようもない、そんな人間。