【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
ちゃんと顔を見て、言いたい。
伝え、たいのに。
俯いた顔をあげられない。こんな情けない顔、見られたくない。
嬉しくて今にも泣いちゃいそうなんです、なんて、口が裂けても言えない。
だって……そんなの私じゃないから。
那月君は、仏頂面で、クールで冷静で、しっかりしている私が好きなんだ。
そうやって弱い部分を隠す為に作り上げてきた私を見て、きっと好きだと言ってくれた。
本当は……弱くて臆病で怖がりで、涙脆くて——那月君が好きで堪らない私なんて知られたら、嫌われてしまうかもしれない。
それだけは、何があっても避けたい。
嫌われたくない、少しでも長く……那月君と一緒にいたい。
そばにいさせて欲しい。
ぐるぐると頭の中でいろんなことを考え、黙り込む私を不思議に思ったのか、那月君が心配そうに顔を覗き込んできた。
「先輩?……すいません。俺、迷惑でしたか?」
「……え?っ、い、いえ」
「よかった。正直、待ち伏せなんかして気持ち悪がられたらどうしようかと思ってました」
「そ、そんなことないです」
こんな自分、嫌い。大嫌い。
可愛くないことしか言えない私。そっけない言葉しかでてこない。
「先輩、家まで送らせて下さい」
「だ、大丈夫です。一人で帰れます」
ほら、また。
本当は、もう少し一緒にいたいのに……。一緒に、帰らせてほしい。
でも、こんな時間まで待ってもらって、さらに送ってもらうだなんて、那月君にそこまでの迷惑をかけられない。
矛盾だらけの自分に疲れて、再び顔を下げて俯いた。