【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
過ぎ去ったと思っていた夢のようなひとときが、戻ってきたんだ。
もうこの人を……離したくない。
那月君のスーツが、涙で濡れている。
申し訳ないなと思いながら、離れるという選択肢も、涙を止める術も持ち合わせてはいなかった。
「先輩、本当に泣き虫ですね」
「い、嫌?」
「いえ、全く。……実はね、先輩が本当は泣き虫だって、俺知ってました」
一瞬意味がわからなくて、言葉通り思考が停止した。
驚いて那月君を見つめれば、那月君はなにやら不敵な笑みを浮かべている。
「う、嘘っ、どうして?」
あまりに想定外のカミングアウトに、私は目を大きく見開いた。