【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
episode*05『独占欲、強いみたいです』
どう、して?
「なんで知っているの?」と那月君を見つめると、那月くんはゆっくりと話を始めた。
「入社してすぐくらいに、屋上で偶然、先輩が泣いている姿を見かけたんです」
それは、私が知らなかった……きっかけの話。
「びっくりしました。いっつも涼しい顔して、怖いものなんて何もないって感じの先輩が、子供みたいに泣いていたから」
「……っ」
「それから先輩のことが凄く気になり始めて……見ているうちに、本当はとても優しい人だって気づいたんです」
那月君は「ふっ」と、懐かしむような優しい笑みを零す。
私は那月くんの話に、じっと耳を傾けた。
「見えないところで後輩のフォローに回ったり、女性社員の帰りが遅くならないように自分だけ残業したり、誰も気にしてないような観葉植物に水遣りしたり……」
そんなところを……見られていたなんて。
「俺だけはこの人のこと、全部わかってあげたいって……守ってあげたいって思いました。もう俺、ずっと先輩のことしか見てない」
おさまっていたはずの涙が流れ出す。相変わらず涙腺が切れてしまったのか、ぽろぽろと溢れ出した。
そんなふうに思ってくれていたなんて……少しも知らなかった。