【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
頰を濡らす涙を拭って、那月くんと視線を交わす。
「こんな、ダメな人間で、ごめんなさい……那月くんに嫌な思いばかりさせてしまって」
涙で、服の袖が濡れている。けれどそんなことはどうでもよくて、今は那月君に気持ちを伝えることに精一杯だった。
すっと、伸びてきた手が私の頰に重なる。
「先輩、自分のこと卑下しすぎです」
那月君は、困ったように、けれども嬉しそうに微笑んだ。
「さっきね、上司に言われたんですよ、俺先輩と付き合い始めて調子乗ってたって」
……あ。
盗み聞きしてましたとは言わずに、頷いて返す。
「正直、それ図星です。俺凄く浮かれてたんですよ、先輩と付き合えて」
「え?」
「高嶺の花で、みんなが憧れている人っていうのももちろんありましたけど、俺が今まで出会った女性の中で、先輩は間違いなく一番素敵な人だったから」
那月君、この前もそんなことを言っていたっけ?
素敵なんて、私には似合わない言葉なのに。
「そ、そんなことは——」
「否定なんてさせませんよ。これから、俺がわからせてあげます。先輩がどれだけ魅力的な人か……俺がどれだけ、先輩に惚れてるか」
私の声を、那月君が遮った。続け様に告げられた言葉に、私は泣きじゃくって、もう何にも言えなくなってしまう。