【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
《 2nd 》嫉妬と独占欲。
episode*01『そんなに可愛い顔しないでください』
「先輩」
背後から聞こえた愛しい人の声に、慌てて振り返る。
あっ、那月君。もう終わったんだ。
時計を見れば、ちょうど定時の時間。
「仕事、終わりそうですか?」
「はい。今片付けますね」
私も今日中に終わらせなければいけない仕事は片付いていたので、帰る支度を始めた。
視線が、痛い。
オフィスにいる社員さんたちが、こぞって私と那月君を見ている。
付き合ってからも、二人でいることは滅多になかったから物珍しいのかもしれない。
見られる、というのは、あまり良いものではない。
「お待たせしました」
「いえ。帰りましょうか」
急いで支度を済ませ、那月くんとオフィスを出た。
我が社は恋愛禁止、なんていう決まりは無いし、私と那月君以外にも付き合っている人はたくさんいる。夫婦で同じ部署に勤めている人も存在するくらいだ。
堂々と手を繋ぐカップルもいれば、中には恋愛関係のトラブルから辞めてしまう子もいたり……。
那月君とのお付き合いも、特に隠す必要はないと言ったらない。
でも、注目されるのは苦手だから社内では最低限、先輩と後輩として見られる言動を心がけたい。
けれど、那月君はそうは思っていないらしい。