【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
オフィスを出るなり、繋がれた手。
「な、那月くん、まだ他の人たくさんいますよっ」
小声でそう言って手を振り払おうとしたけれど、なかなかにきつく握られていて、振り解けない。
「もうそんなにいませんよ。それに、誰も見てませんって。今日の俺浮かれてるんで、何言っても無駄です」
私の方へ振り返り、意味深な笑みを浮かべた那月君。
誰も見てませんって……ほ、ほら、目の前の男の人、凝視してるっ……。
できるだけ周りの視線を避けるように歩いて、羞恥に耐えた。
エレベーターに乗って、ようやく人目から隠れる。
「那月くん、社内で手を繋ぐのは、さすがに……」
「先輩の同僚とか、人目が多いところではしません。ね?」
「は、はい……」
「もう、そんな可愛い顔しないでください」
……え?
顔を上げた途端、ちゅっ、という可愛らしい音がエレベーターの中に響いた。
っ、こんなところでっ……!
「だ、誰か来たらどうするんですかっ」
「ふふっ、すみません」
絶対に悪いと思っていない言い方だったけれど、あんまりにも嬉しそうなので、これ以上何も言えなくなる。
さっきから、というより、お昼休みから那月君は随分ご機嫌だ。
私と復縁したことを喜んでくれているのだと思うと、純粋に嬉しい。