【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
束の間の沈黙が私たちの間に流れて、先に動いたのは那月君の方。
突然、握られた手。
「あの、すみません。今回は俺も引きません」
「え?あっ……」
グイッと、強引に手を引かれた。驚いて顔を上げると、そこには困ったように眉の端を下げている那月君の顔が。
「ここら辺、ただでさえ治安もあまり良くないのに、一人で帰らせるなんて心配で無理です」
那月君……。
どうしよう。心臓がうるさい。私の顔、絶対に真っ赤になってる……。
「送ったらすぐに帰ります。それでも、ダメですか?」
ぎゅっと握る手に力を込めて、ねだるような顔をする那月君。
そこまで言われたら、さすがの私も断る言葉が出てこなかった。
「はい、お願いします」
聞こえるか聞こえないか、そんな小さな声。
ちゃんと聞き取ってもらえたようで、那月君はにこりと微笑み「ありがとうございます」と言うと、私の手を握ったまま歩き出した。
心臓がうるさすぎて、音が聞こえてしまいそう。
握った手から伝わる、那月君の熱。
手、大きいな。後ろ姿でさえもかっこよくて、気づかれないのをいいことに、じっと食い入るように背中を見つめた。
「先輩、着きました」
「え?あ、は、はい」
び、びっくりした……。
どうやら駐車場についたようで、那月君が急に振り返ったのだ。
み、見ていること、バレてしまったかな……は、恥ずかしい。