【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。


えっと、昨日は那月君の家に泊まりに来て、ソファで那月君を待っていて、それで……。


「先輩、昨日ソファでそのまま寝てたんです。勝手にベッドまで運ばせてもらいました」


那月君の言葉に、自分の額を手で押さえた。

何てことを……いろいろとやってしまった……。


「ご、ごめんね」

「どうして謝るんですか」


ふっと、優しい笑みを零して、那月君は布団の中で身を捩った。

私の頰に自分の手を添えて、じっと見つめてくる。


「ね、ぎゅってさせてください」

「……っ」


首を縦に振ってみせると、嬉しそうに微笑んで、抱きしめてくる那月君。

朝からとても幸せな気分になって、泣くような場面でもないのにじんときた。

なんだか、幸せすぎて涙が出そうだ。那月君の胸の中、あったかい。


「先輩、今日は予定とかありますか?」


丁度、那月君がそう聞いてきたのと同時。私のケータイが音を鳴らした。


「ごめんなさい……私のスマホです」

「とりますよ」


電話だろうか、どこにケータイがあるかわからなくてあわあわしていると、那月君がベッドから出て取りに行ってくれた。

あ……鞄、そんなところに。


< 71 / 220 >

この作品をシェア

pagetop